幼児期の子どもを見ていると、大人はときどき不安になります。
ブロックを積んでいる。
色を混ぜている。
ごっこ遊びで同じやり取りを何度もしている。
その姿を見て、「これは本当に学びになっているのだろうか」と感じることがあります。
特に周りが早期教育や先取り学習の話をしていると、遊んでいる時間が少し遠回りに見えることもあります。
けれど、文部科学省は幼児教育について、一貫して「遊びを通した学び」を重視しています。
幼児教育の重要性を説明する資料でも、幼児期の遊びを通した学びと、小学校の各教科等の学習とのつながりが整理されています。
つまり、遊びは勉強の前にある余白ではなく、学びの最初の形として見られているわけです。
この視点は、感覚論だけではありません。
なぜそう言えるのか。
理由の一つは、遊びの中では、子どもが多くのことを同時にやっているからです。
たとえば色遊びなら、「何を混ぜるか」を選び、変化を見て、予想と結果を比べ、驚きを言葉にします。
ごっこ遊びなら、役割を決め、相手の動きに合わせ、話の流れを作り、自分の気持ちを少し抑えながらやり取りします。
これはどれも、学校に入ってから急に必要になる力ではなく、その前段階として育っていく力です。
研究でも、遊びが発達に結びつくことは繰り返し示されています。
たとえば、系統的に遊びを取り入れた幼児向け介入研究では、実行機能、つまりワーキングメモリ、抑制、切り替えといった力の改善が報告されています。
また、見立て遊びやごっこ遊びは、自己調整と関係することも示されています。
遊びの中では、「今はお店屋さん役」「次は相手の番」といったルールや役割を保ち続ける必要があるので、衝動のコントロールや切り替えが自然に使われるからです。
社会性の面でも、遊びは大きな意味を持ちます。
見立て遊びと社会的コンピテンスの関連を見た研究では、遊びが豊かな子ほど、友だちとの関わりや活動への参加に前向きであることが示されています。
大人から見るとただ遊んでいるようでも、実際には「相手の考えに合わせる」「流れを壊しすぎない」「譲る」「提案する」といった協働の練習がしっかり入っています。
遊びのどこが学びなのか
幼児期の遊びを学びとして見る時、大人が見落としやすいのは「正解が表に出ていないだけで、頭の中では多くの学習が起きている」という点です。
積み木が崩れた時、子どもは高さや重さを手で感じています。
色が変わった時、予想と結果のズレを経験しています。
ごっこ遊びで友だちとぶつかった時、相手の気持ちや順番を考えています。
これは全部、小学校以降の理科、国語、生活、算数、人間関係につながる基礎です。
しかも遊びの良さは、子どもが自分のタイミングでくり返せることにもあります。
同じことを何度もやるのは、大人から見ると停滞に見えるかもしれません。
でも幼児にとっては、そのくり返しの中で少しずつ理解が深まっていることが多いです。
一度で正解にたどりつくことより、くり返しの中で感覚を確かめることの方が、むしろ幼児期には自然です。
ただし、遊べば何でも学びになるわけではない
ここは大事なところです。
遊びが学びになるのは、子どもが自分で試し、工夫し、誰かや何かと関わりながら意味を作っている時です。
逆に、刺激だけが強くて、自分で考える余地がほとんどないものは、遊びではあっても学びとしては薄くなることがあります。
だから大人にできるのは、「勉強に置き換える」ことではなく、「深まる遊び」を支えることです。
何色になると思う?
どうしてそうなったんだろう?
次は何をしてみる?
こうした声かけが入るだけで、遊びはぐっと豊かになります。
大切なのは、説明しすぎず、でも見守りっぱなしにもせず、子どもの試行錯誤を少し先へ進めることです。
また、遊びを評価の対象にしすぎないことも重要です。
「今日は何を学んだの?」と毎回成果を言わせようとすると、遊びが急に課題っぽくなってしまいます。
幼児期には、面白かった、驚いた、もう一回やりたい、くらいの手応えが残れば十分なことも多いです。
そこから次の好奇心が生まれます。
PikaLab のコンテンツが使いやすいのも、ここに理由があります。
色を混ぜて試す、音を並べて変化を感じる、生活の中の課題をゲームで触る。
これらは先に正解を覚えさせるというより、触って、比べて、考える余白を残しています。
遊びが学びになるのは、こうした余白がある時です。
幼児期に本当に大切なのは、いきなり正しい答えを増やすことより、「試してみたい」「もう一回やってみたい」が残ることかもしれません。
その気持ちがある子は、小学校に入ってからも学びに向かいやすい。
遊びは、そのための準備ではなく、そのものがすでに学びの一部なのだと思います。
参考にした研究・資料
・文部科学省「幼児教育の重要性・遊びを通した学び」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/youchien/mext_02697.html
・文部科学省「学びや生活の基盤をつくる幼児教育と小学校教育の接続について」
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20230224-mxt_youji-000027800_1.pdf
・Traverso, L. et al. (2019). Executive Functions Can Be Improved in Preschoolers Through Systematic Playing in Educational Settings.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31551874/
・Uren, N., & Stagnitti, K. (2009). Pretend play, social competence and involvement in children aged 5-7 years.
参考にした研究・資料
・Robson, D. A., Allen, M. S., & Howard, S. J. (2020). Self-regulation in childhood as a predictor of future outcomes: A meta-analytic review.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31904248/
・Durlak, J. A. et al. (2011). The impact of enhancing students' social and emotional learning: a meta-analysis of school-based universal interventions.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21291449/
・文部科学省「資料3 言語力の育成に関して予めいただいた意見及び第1回会議における主な意見(概要)」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/036/shiryo/attach/1399636.htm