忙しく夕飯の支度をしているとき、子どもが足元にやってきて質問を始めます。
「ねえ、なんで空は青いの?」
「なんでカラスは黒いの?」
「どうして夜になったら寝なきゃいけないの?」
一つ答えても、すぐに次の「なんで?」が飛んでくる。
疲れているときには、つい「もう後にして!」「自分で調べて!」と語気を強めてしまうこともあります。
そして、少し寂しそうに離れていく子どもの背中を見て、「せっかくの好奇心を潰してしまったのではないか」と親の方が落ち込んでしまうのです。
けれど、親が「歩く百科事典」のように、すべての質問に即座に正しい答えを返す必要はありません。
実は認知心理学の研究を見ると、大人が正解を教えすぎないことこそが、子どもの探究心を深めるカギになることが分かっています。
「正解の教えすぎ」が子どもの探索を止める
マサチューセッツ工科大学(MIT)のボナウィッツ(Elizabeth Bonawitz)らが行った、非常に示唆深い実験があります(2011年、Cognition)。
研究チームは、引くと音が鳴ったり、光ったり、鏡が現れたりする「4つの隠された機能」を持つ複雑なおもちゃを子どもたちに渡しました。
一方のグループには、大人が「このおもちゃを見せるね。ここを引っ張ると音が鳴るんだよ」と、一つの機能をはっきりと教え込みました(直接教授)。
もう一方のグループには、大人が「これ何だろうね?」と言いながら、偶然音が鳴ったかのように見せました。
そのあと子どもたちにおもちゃを自由に遊ばせたところ、驚くべき違いが現れました。
大人から「使い方はこれだよ」と直接教わった子どもたちは、その教えられた機能だけを繰り返し、他の仕掛けを自分で探そうとしなかったのです。
一方、大人が正解を決めつけなかったグループの子どもたちは、おもちゃのあらゆる部分を触り、引っ張り、隠されていた他の機能を次々と自分で発見しました。
研究者たちはこれを「教授の両刃の剣(The double-edged sword of pedagogy)」と呼びました。
大人が良かれと思って親切に「正解」を渡しきってしまうと、子どもは「大人が教えてくれたことが世界のすべてだ」と思い込み、自分で試行錯誤するのをやめてしまうのです。
好奇心は「分からない隙間」があるから燃える
行動経済学者で心理学者のローウェンスタイン(George Loewenstein)は、好奇心の正体を「情報ギャップ理論」で説明しました(1994年)。
人間は、「すでに知っていること」と「まだ知らないこと」の間に隙間(ギャップ)を感じたときに、強い知的好奇心を感じます。
推理小説の犯人が気になってページをめくる手が止まらなくなるのと同じです。
子どもが「なんで?」と聞いてきたとき、スマホですぐに答えを検索して100点の正解を与えてしまうと、その隙間は一瞬で埋め立てられてしまいます。
知識は増えるかもしれませんが、「自分で考えて予想するワクワク感」はその瞬間にしぼんでしまうのです。
百科事典ではなく「探究の相棒」になる
子どもの「なんで?」を受け止めるとき、親に求められているのは先生役ではありません。
一緒に謎を面白がる「相棒」になることです。
「なんで空は青いんだろうね?」と聞かれたら、答えを知っていても、知らなくても、まずこう返してみます。
「ほんとだ、どうしてだろう!〇〇ちゃんはどうしてだと思う?」
子どもは突拍子もない仮説を言うかもしれません。
「海の青が反射してるのかな?」「お日様が青い絵の具をこぼしたのかな?」。
その仮説が科学的に間違っていても、決して否定する必要はありません。
「面白いこと考えるね!」「じゃあ夕焼けが赤くなるのはなんでだろう?」と、問いをさらに広げていきます。
自分の頭で考え、予想し、仮説を立てるプロセスそのものが、子どもの思考力を豊かに耕していきます。
家庭で持ちたい見方
- 質問の正解を急がず、「面白いところに気づいたね!」と問いそのものを歓迎する
- すぐに教えず、「どうしてだと思う?」と子どもの予想や仮説を聞いてみる
- 大人が分からないときは、「分からないから一緒に調べてみよう」と探究の仲間になる
- 忙しくて付き合えない時は、「メモ帳」に書いておいて後で一緒に開く約束をする
毎日の質問すべてに真面目に付き合う必要はありません。
夕飯時なら、「すごくいい質問だから、冷蔵庫の紙にメモしておこう!ごはんの後に一緒に図鑑見ようね」で十分です。
子どもは「自分の疑問を大切に扱ってもらえた」と安心します。
PikaLab のツール(色まぜラボ、深海ラボ、宇宙ラボなど)も、正解をただ覚えさせるドリルではありません。
黄色と青を混ぜたらどうなるか、水深何千メートルの海にはどんな生き物がいるのか。
「どうなるんだろう?」と予想し、指先で触って確かめる体験そのものを楽しむために作られています。
正解を暗記することより、不思議に出会って目を輝かせること。
その好奇心の火種を消さずに守り続けることが、子どもがこれから出会うあらゆる学びの最強のエンジンになるのだと思います。
子どもが自発的に試す力の価値については、「遊びはどこまで学びになるのか」の記事でも整理しています。また、本をきっかけに問いを広げる環境づくりには「読書好きな子の育ち方」も参考になります。
参考にした研究・資料
・Bonawitz, E., Shafto, P., Gweon, H., Goodman, N. D., Spelke, E., & Schulz, L. (2011). The double-edged sword of pedagogy: Instruction limits spontaneous exploration and discovery. Cognition, 120(3), 322–330.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21215982/
・Loewenstein, G. (1994). The psychology of curiosity: A review and reinterpretation. Psychological Bulletin, 116(1), 75–98.
https://psycnet.apa.org/record/1994-43460-001
・Jirout, J., & Klahr, D. (2012). Children's scientific curiosity: In search of an operational definition of an elusive concept. Developmental Review, 32(2), 125–160.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22844171/