「子どもは褒めて育てましょう」という言葉を、子育ての中で耳にしない日はありません。
叱るより褒めた方がいい。
自信をつけさせてあげたい。
そう思って、親は日常の中で一生懸命に言葉を探します。
「すごいね!」「天才だね!」「えらいね!」。
けれど、熱心に褒め続けているうちに、ふと違和感を覚える瞬間があります。
間違えることを極端に嫌がるようになったり、褒められないと急にやる気をなくしてしまったりする姿です。
自信をつけさせたくて褒めていたはずなのに、なぜか子どもが「失敗を怖がる子」になっていくように見える。
このモヤモヤは、実は心理学の研究でも古くから指摘されてきた重要なテーマです。
能力を褒めることの落とし穴
スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック(Carol Dweck)らの研究は、褒め言葉が子どものやる気に与える影響を鮮やかに示しました(Mueller & Dweck, 1998)。
小学校高学年の子どもたちにパズルを解かせたあと、研究チームは一方のグループには「よくできたね、頭がいいんだね」と能力(知能)を褒めました。
もう一方のグループには、「よくできたね、一生懸命がんばったんだね」とプロセス(努力や工夫)を褒めました。
そのあと、全員に少し難しくて失敗する問題を解かせたところ、両者の反応は真っ二つに分かれました。
「頭がいい」と褒められた子どもたちは、失敗した途端に楽しさを感じなくなり、粘り強さを失い、その後の問題の成績まで大きく落としてしまいました。
なぜなら彼らにとって、失敗することは「自分には頭の良さがないことの証明」になってしまったからです。
一方、「工夫や努力」を褒められた子どもたちは、難しい問題にぶつかっても「もっと別のやり方を試してみよう」と粘り強く取り組み、解くことを楽しんでいました。
つまり、良かれと思ってかけた「頭がいいね」「才能があるね」という言葉が、知らず知らずのうちに子どもを「失敗できないプレッシャー」に追い込んでいたのです。
「大げさな褒め言葉」がプレッシャーになる
さらに、アムステルダム大学のブルメルマン(Eddie Brummelman)らの研究(2014年)では、「過剰に大げさな褒め言葉(inflated praise)」の副作用が報告されています。
「ものすごく完璧!」「信じられないくらい上手!」といった強調表現をつけて褒められた子ども、特に自信を失いかけている子どもは、その後、難しい挑戦を避けて簡単な課題ばかりを選ぶ傾向が見られました。
大人は元気づけようとして大げさに褒めたつもりでも、子どもにとっては「次もその信じられないくらい高い基準をクリアしなければ見放される」という恐怖に変わってしまうのです。
もちろん、これは「褒めることすべてが悪い」という意味ではありません。
ただし、大人の評価があまりに大げさで結果ばかりに向いていると、子どもの関心は「学ぶことの面白さ」から「親に良い評価をもらうこと」へとすり替わってしまうリスクがあります。
「評価のジャッジ」から「事実の共有」へ
では、家庭ではどのように言葉をかければいいのでしょうか。
ポイントは、親が上から合否を決める「審査員」になるのをやめ、子どもの横で一緒に観察する「実況席」になることです。
点数や成果を「すごい」「えらい」と判定する代わりに、子どもがやった事実をそのまま言葉にしてみます。
「最後まであきらめずに計算を見直していたね」
「さっきと違う色を混ぜて試したんだね」
「前はここで迷っていたけれど、今日は自分で気付いたね」
こうした言葉には、嘘や大げさな基準がありません。
子どもは「自分の行動をちゃんと見ていてくれた」という安心感を受け取り、何がうまくいったのかを自分で振り返ることができます。
家庭で持ちたい見方
- 「頭がいい」「天才」ではなく、工夫・試行錯誤・粘り強さに言葉を向ける
- 大げさに評価するより、見ている事実をそのまま伝える(実況中継)
- 大人の驚きや発見を対等に共有する(「それ面白いね!どうやったの?」)
- 失敗したあとに自分で考え直した瞬間こそ、しっかり見届ける
子どもが本当に求めているのは、過剰なおだてや点数の判定ではなく、「自分の存在や試みが、ちゃんと大人に届いている」という確かな実感です。
PikaLab のツールで子どもが遊んでいるときも、この距離感がとてもよく合います。
「全問正解!すごい!」と持ち上げる必要はありません。
「あ、フラスコの色が紫色になったね」「分母を大きくしたら、一切れの形が細かくなったね」。
画面の中で起きている変化を、親子でただ一緒に面白がる。
それだけで、子どもは評価の視線から解放され、自分のペースで安心して探究の世界に没頭できるようになります。
失敗と向き合う力を育てる関わり方については、「失敗に強い子は、どう育っていくのか」の記事でも詳しく整理しています。また、やる気と報酬のバランスについては「ごほうびで勉強させるのはありか」も参考になります。
参考にした研究・資料
・Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998). Praise for intelligence can undermine children's motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33–52.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9686450/
・Brummelman, E., Thomaes, S., Overbeek, G., Orobio de Castro, B., van den Bout, J., & Bushman, B. J. (2014). "That's not just beautiful—that's incredibly beautiful!": The adverse impact of inflated praise on children with low self-esteem. Psychological Science, 25(3), 728–737.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24434235/
・Henderlong, J., & Lepper, M. R. (2002). The effects of praise on children's intrinsic motivation: a review and synthesis. Psychological Bulletin, 128(5), 774–795.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12206194/